このCD、南北戦争期の南北両軍の行進曲やラッパ信号、当時の流行歌などに加えて、その当時使用された大砲や小銃といった火器の音が収められている。ともすると、ややキワモノ的、デモンストレーション的なディスクと思われがちだが、マーキュリー録音のなかでも屈指の好録音でマーキュリーというレーベルを体現したディスク、だと思った。録音は1960年と62年。61年には経営の不振によりフィリップスに買収されたのでその過渡期にあたる。
火器(大砲や小銃)の実射音(空砲)の収録はかなり凝っている。使用された火器は南北戦争時のもので、録音場所も戦場となったゲティスバーグやウェストポイント(陸軍士官学校)で行われている。その時代の大砲を使うあたりはさすが。しかし相当のコストが掛ったのではないか。この部分は60年の収録。フィリップスに買収された後では録音させてもらえなかったに違いない。このあたり、マーキュリーのしたたかさが窺える。買収もいきなりではなかったと思われ、どうせ買収されるなら、ここは一つ・・・、なんて感じだったんじゃないかと思う。また、ただ火器の音を収めるだけでなく、火器の説明と思われるナレーション入りである。英語が不得手なので詳しくはわからないけれども、ライナーノートには使用した楽器、当時の火器や楽曲の説明など仔細に書かかれており、単なる音楽CDとなっていない。
当時、驚異的に優秀な録音を誇ったマーキュリー。もちろんレコーディング技術に対する絶対的自信があるのだと思うが、使用楽器や火器、録音場所といったディテールの細かさやこだわりがのマーキュリーのディスクを単なる優秀録音ディスク、というだけにとどまらない、何というか、レコーディングという行為をもう一段、価値あるものにしているように思う。
もう一つ、マーキュリーのCDについて。このCDは90年のリリースで、当時のプロデューサーのウィルマ・コザート・ファインがCD化のプロデュース、監修をしている旨表記されている。国内盤でもアメリカプレスはこの表記があるが、その後の国内プレス盤にはこの表記がない。コザートの監修が無いせいなのかわからないが、国内プレス盤はアメリカプレス盤に比べ音質は少し落ちる、と考えている。それでも好録音であることは間違いないのだが、わずかに音がにじむ感じだ。アメリカ盤はエッジが立っていて音の鮮度がいい。
面白いと思ったのは、録音に使用された楽器だ。オリジナルかレプリカかは判然とはしないが、博物館にあったものが使われている。当時の軍楽隊で使用された金管楽器はラッパのベル(朝顔)が後方に向いていて、ちょうど銃を肩に担ぐような形になっている。レコーディング風景のスナップではステージ奥のひな壇の一番高いところに指揮者のフェネルがいて、金管楽器の奏者は客席方向に背を向ける格好だ。ステージ最前列にいる木管奏者はまるっきり指揮者に背を向けている。
※画像をクリックすると拡大します。
すっかり忘れていたが、今年はフレデリック・フェネルの生誕100年にあたる。メジャーな指揮者ではないし、記念盤もめぼしいものは出なかったと思う。フェネルがいなかったとしても吹奏楽というジャンルは確立されたろうと思うが、こう早くはならなかったと思う。フェネルとマーキュリーの功績は大きいと思う。
Mercury 432 591-2 |
レコーディングに使用された金管楽器とドラム。当時のものかレプリカかは不明 |
レコーディング風景 ステージ奥センターはフェネル。ラッパのベルをマイクに向けるため、金管奏者は後ろを向いている。 木管奏者は丸きり指揮者に背を向けている。どうやって指揮に合わせていたかはナゾ。 |
フェネル自身が奏法を実演している |
0 件のコメント:
コメントを投稿