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2016年3月31日木曜日

「と盤」のしくじり

音楽、特にクラシック音楽関係の読み物(本)は売れ行きが芳しくないのは容易に想像できるのだが、見つけたときに買っておかないと入手が難しい。
でも結構高い。アイザック・スターンの伝記は4500円もする。買えねえよッ!ミヨーの本も中古で20000円だ。一度東京神田神保町で見つけてレジまでもっていって価格を聞いてスイマセンしたことがある。あの時の店主の(ケッ、冷やかしかよ的な)人を馬鹿にしたような眼はトラウマ。
さて、音楽を聴くのにガイド本が必要かどうかは置いといて、ちょっと懐かしいガイド本のご紹介。
90年代後半、自分がクラシック音楽を聴き始めて10年ほど経った96年に洋泉社から「クラシック名盤&裏名盤ガイド」という本が出た。その後97年「クラシックの聴き方が変わる本 テーマ別・名盤&裏名盤ガイド」が、98年「名指揮者120人のコレを聴け! 指揮者別・クラシック名盤&裏名盤ガイド」とシリーズ化され、相次いで出版された。結構評判がよかったのだろう。

洋泉社は当時、「トンデモ本の世界」という本(これもシリーズ化)を出していた。オカルトや超常現象から小説など、書いた本人は大真面目だが読み手からすると勘違いに思えたり、どこか抜けていて、突っ込みどころ満載という本を紹介するものだった。それをクラシック音楽の音盤に当て嵌めて論じたのがこのシリーズ。そういったCDや演奏を「トンデモ盤(と盤)」とか「トンデモ演奏」と呼んでいた。
「トンデモ盤(と盤)」「トンデモ演奏」とは「(演奏者)本人はまじめだが、演奏者の大ボケや、無知、カン違い、妄想などにより常識とはかけ離れたおかしなものになってしまった演奏のこと。演奏者が意図したものと異なる視点から聴いて楽しめるもの」ということらしい。要するに標準的な解釈や演奏から逸脱した面白い演奏ということか?

まあ、何をもって標準的な解釈、演奏というのかはさておき、時は輸入CDの全盛期。国内盤は新譜フルプライス3000円から2800円、廉価盤でも2000円ぐらいだったか。グラモフォンとデッカが1500円のCDを出したときは結構衝撃だったことを覚えている。同じころに徳間の1000円盤があったな。そのころの輸入CDは価格帯でフルプライス、ミドルプライス、バジェットプライスの3段階くらいに分かれていた。圧倒的に輸入盤のほうが安かった。ちなみに輸入盤でフルプライスはBIS、シャンドス、オルフェオなどで2500円前後。ミドルプライスはメジャーレーベルの廉価盤などで1750円くらいか。バジェットプライスはメジャー喰いのナクソスやアルテノヴァなどで1000円を切る900円台であったか。そのうちの狙い目はメジャーレーベルをはじめとする廉価盤の多いミドルプライス。往年の名指揮者のシリーズものが定評ある音質で多数リリースされた。指揮者に限っても国内盤ではお目に掛かれない指揮者の演奏に触れることも容易になった。多くの演奏家に触れることができるようになって結果、多様な解釈、演奏に触れることになったわけだ。ちょっとした黒船である。
そうすると価値観も変化してくる。従来、永遠の名盤を求めて音盤を買い求める、という姿勢から、変わった演奏、個性的な演奏、面白い演奏を裏名盤として、こんなのもアリなんじゃね的な聴き方やコレクションに価値がシフトしてきたように思う。

そんなこんなで「クラシック名盤&裏名盤ガイド」は当時、中堅~新進の32人の音楽評論家の共著。
現在でも名前をよく見る小沼純一や許光俊、片山素秀(現在は杜秀)に竹内貴久雄、中野和雄、盤鬼、平林直哉など錚々たる顔ぶれ。共通しているのは語り口が軽い(ソフト)なところぐらいでその批評のスタンスは多様だ。変わった演奏を徹底的に茶化すようなものもあれば新たな価値観を与えるような評論もある。
続編の2冊も同じ傾向。「テーマ別~」が一段とディープかつシニカルか。
チェリビダッケやヴァント、クレンペラーなどを持ち上げ、ロスバウト、シェルヘンにケーゲルなどに猟奇的演奏、指揮者として光を当てる一方、オーマンディやマズア、アバドなどを無知、凡庸、勘違いな演奏、指揮者として貶めるような書き方がされていると感じる。

この「名盤&裏名盤ガイド」シリーズ、クラシック音楽の新たな聴き方を提唱したことは画期的だったわけだがちょっとステレオタイプにすぎるように思う。20代~30代前半あたりのクラシック初心者から少し聴きかじってわかってきた人をターゲットにしていて、なんとか面白く読ませようするのはわかるし、確かに面白いのだがその分、極端な物言いが多い。刺激的な表現は強烈に刷り込まれる。今より血の気も多く「トンデモ盤」のような刺激を求めていた20代の自分にとってはまさにバイブルに等しかった。ゆえにいわゆる従来の価値観でいう名盤や凡庸とされた演奏家の演奏をツマンナイものとして忌避してきた。従来の名盤も良いけれど、こんな演奏もあるんだよ、色んな演奏があるんだという演奏の多様性を説くこのシリーズの趣旨に外れた聴き方をしていたわけ。
これはヘタこいたですよ~。しくじりました。あの時もっと名盤と呼ばれるものを聴いておけばよかった、と思うんです。40代になっていわゆるスタンダードな演奏をせっせと聴き、ようやくにバランスよく演奏の多様性を楽しめるようになってきたかな。マズアもオーマンディも聴きますよ~。

さて、あの頃バジェットプライスの雄だったナクソスも今では高く感じる。価格も少し上がっている。クラシックCDメジャーレーベルの統合が進み、BOXセットものが主流となり1枚あたり数百円と一層の価格低下が進んだ。うれしくもあるが、そうそう喜んでもいられない。CDを買うペースはそれほど変わらないのに、一度に買う枚数は増えるわけで、音楽の聴き方というか姿勢も変わるのではないかと思う。




2 件のコメント:

  1. ごめんください。高田公園の観桜会が始まったみたいですが、インフルエンザ、大変ですね。
    「と盤」というのはそういう意味だったんですか。参考になりました。
    自信満々の評論家もいますが、この人の言っていることだから、というような気持で読んでしまいます。どうして、こんなに確信を持てるのか、自分を信用できるのか・・・
    最近、マーラー3番の最終楽章を繰り返して聴いています。デュトワのN響の録画を見た同僚が、最終楽章いいよといっていました。本当にいいです。
    私にはとうていできないです。知識はもちろん、気持ちの面でも。

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  2. こんばんは
    このシリーズが出てから10年近く経ちます。個人的な感想としては最近では音楽評論家も随分と淘汰された感があります。ネットやブログのユーザーレヴューを参考にすることがほとんどです。
    お出かけできず、ショボーンですが、WAMの弦楽四重奏曲第6番に癒されています。

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